相続財産が不動産しかない場合の遺産分割の方法

 相続財産を巡る争いなど資産家一族たちだけに起こるトラブルで、自分たちには関係ないと思っている方も多いでしょう。しかし、実際には一般家庭の方が相続財産を分割するにあたって悩むことになるのです。


相続財産が不動産しかない場合もその一つです。父親名義の土地に長男が家を建て、次男は独立しているとします。相続財産は土地という不動産だけです。母親が既に亡くなっている場合、父親が亡くなって法定相続割合どおりに遺産を分けたいなら、不動産を長男次男それぞれが2分の1持つことになります。しかし長男が既に家を建てている土地である以上、土地を分筆して相続することは避けるべきでしょう。もし次男が亡くなればその妻子が相続人となり、不動産の共有者がどんどん増えてしまうのです。

この時の解決方法の一つに代償分割があります。不動産である土地は長男が相続し、その代わりに次男に代償交付金と言う形の現金を渡すのです。この方法なら長男は土地家屋が守れ、次男も相続財産に相当する現金が手に入れられます。なお、代償交付金は相続財産の2分の1から4分の1が相場です。次男の遺留分は4分の1なのでこの範囲ですが、長男次男で合意できるなら自由に決められます。


相続財産が不動産しかない場合と現金しかない場合、分けづらい前者の方が争いを招きやすいケースだと言えます。不動産自体を分ける方法は実質広大な土地がある場合にのみ可能で、きっちり法定相続分どおりに配分するなら不動産を売却して現金にしてから分けるしかありません。

また、父親が既に他界し、その子供である兄弟のうち1人だけが母親と同居して介護をしていた場合、さらに事態は複雑です。選択肢は同居していた子供が家の全権利を相続して、他の兄弟には相続財産に相当する代償交付金を渡すか、家を売却した現金を分割することにして転居するか、です。代償交付金を渡す方法は同居していた子供の手持ちの現金が十分にある場合のみ可能で、あまり財産を持っていなかった場合は住み慣れた家を売却することになります。

同居してくれた子供に苦労をさせないよう、相続財産が不動産しかなかった場合は遺言書を作成し、遺志をはっきりさせておきましょう。たしかに、同居してくれた子供に不動産を全て相続させると遺言に書いておいたとしても、他の兄弟には法定相続分の遺留分を請求する権利はあるので、同居してくれた子供が遺留分に相当する代償交付金を用意しなくてはいけないかもしれません。しかし被相続人の遺志がはっきりすることで、心理的負担はずいぶん軽くなると言えます。


相続財産が不動産しかない場合の遺産分割方法としては、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割の4つが考えられます。不動産と多少の預貯金が相続財産だった場合にも参考に出来るので、知っておきましょう。

現物分割はもっともシンプルなもので、相続財産をそのままの形で分け合うものです。広大な土地があるなら分割しても活用できそうですが、分割すると使いにくくなってしまう不動産も考えられます。公平に分配しやすいのは換価分割です。不動産を売却して現金化し、割合どおりに分けるのですが、不動産を手放さなければなりません。

不動産を分割せず手放す必要もない方法としては代償分割があります。1人が不動産を相続し、他の相続人には相当分の代償金を支払うのです。不動産を相続する相続人は現金を用意しなければならないので、十分な現金が無いなら難しい方法です。相続財産の価値は相続人全員が合意できるなら自由に判断できます。

土地を手放す必要がないもう一つの方法が共有分割です。一つの不動産を複数の相続人で共有します。しかし、土地の管理を巡るトラブルが起きたり、その土地を売却したい時には相続人全員の合意が必要になるといったデメリットもあります。